ここ数年、中学生の不登校が急増しています。2017年のデータでは、その数およそ10万人。これは全体の3.25%にもなります。

しかし、実はこのデータはまだ実態を取れ切れていません。不登校予備軍、いわゆる「隠れ不登校」の子はもっとずっと多いのです。

中学生の不登校実態を示す3つのデータ

不登校の中学生は10万人。これは文部科学省の詳しい調査によるものです。

参考:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

これは正確な数字なのですが、しかし、ひとつ問題があります。それは、文科省が「年間欠席30日以上」のみを不登校と定義しているということ。この定義だと、たとえばこんな子供は不登校とみなされません。

  • 年間欠席が30日より少ないけど長期欠席あり
  • 出席はしているが遅刻や欠席が多い
  • 教室には入らず保健室や校長室への登校
  • 教育支援センターなどに通って「出席扱い」

つまり、形式的には正しい数字だけど、不登校のリアルを捉え切れていない。

これを踏まえ、予備軍・なりかけの子も含めた中学生の不登校実態について、日本財団が別の調査を行なっていますので、そちらをご紹介します。この記事ではポイントだけをグラフなどで紹介していますが、詳しい情報は元データの方をご参照ください。

調査結果の元データ:不登校傾向にある子どもの実態調査 | 日本財団

中学生の「隠れ不登校」は33万人

全中学生・不登校予備軍・不登校、それぞれの割合
不登校予備軍は全体の1割を超える

不登校予備軍は全中学生のうち10.2%にあたる33万人。これは推計値となりますが、有効回答が6,450人なので信頼できる数値です。かなりの数ですね。

定義通りの不登校と合わせると、その数は44万人。およそ、中学生の7.5人に1人は不登校、または、その予備軍なのです。

では、この「予備軍」とはどういう子を指すのか。それがこちら。

  1. 年間30日未満だが一週間連続での欠席あり
  2. 保健室・図書館・校長室などへの登校だけ
  3. 遅刻や早退が多い(部分登校)
  4. 教室で過ごすが別のことをしている
  5. 教室で過ごすが内心学校がつらい・きらい

こういった不登校”傾向”の子を把捉しています。

考えてみると、文科省の不登校の考え方は「出席か欠席か」に基づいているので、非常に雑です(大規模調査なので仕方ないのですが)。保健室登校も、ちょっと行って帰って来ちゃう子も「出席」になるので、実態把握には不向きだったのですね。

「内心学校がつらい・きらい」を除くと

さて、上の日本財団の調査では「教室で過ごすが内心学校がつらい・きらい」という子も不登校予備軍にカウントされていました。

しかし、教室に行って一応は授業を受けてるのに「不登校予備軍」というのはちょっと行き過ぎでは? と思う方もいるでしょう。なので、ちょっと補足します。

そのタイプの子は調査結果によると全体の4.4%で、推計値は14万人となっています。これを除くと、「不登校予備軍」は19万人となります。それでも少なくはない数字です。

不登校予備軍の中学生が学校に行きたくない理由

生徒の属性別・授業がよくわからないの割合
不登校・不登校傾向の生徒は授業についていけていない

現役中学生が「学校に行きたくない理由」も調査されています。普通に登校できている生徒と不登校予備軍の生徒とで、比較してみましょう。

カッコの中はパーセンテージです。

普通に登校不登校予備軍
1位疲れる(25.7)疲れる(44.0)
2位朝、起きられない(19.2)朝、起きられない(35.6)
3位テストを受けたくない(16.0)授業がよくわからない・ついていけない(33.3)
4位自分でもよくわからない(15.0)友達とうまくいかない(28.5)
5位小学校の時と比べて、良い成績が取れない(13.0)小学校の時と比べて、良い成績が取れない(27.1)
6位部活がハード(11.8)テストを受けたくない(27.0)
7位授業がよくわからない・ついていけない(11.6)先生とうまくいかない/頼れない(26.1)
8位友達とうまくいかない(10.1)学校は居心地が悪い(25.9)
9位校則など学校の決まりが嫌だ(7.1)校則など学校の決まりが嫌だ(22.5)
10位(小学校の時と比べて、つまらない(6.7)小学校の時と比べて、つまらない(21.8)

1位「疲れる」と2位「朝、起きられない」はどの調査対象でも同じ。割合がちがうにしても、原因ではなく結果と捉えた方がいいでしょう。

注目したいのは、学習に関する部分です。

  • 普通に登校:授業がよくわからない・ついていけない(11.6%)
  • 不登校予備軍:授業がよくわからない・ついていけない(33.3%)

このように、不登校予備軍の生徒はちょうど3分の1が授業についていけていないのです。他にも、いい成績が取れないとかテストを受けたくないという勉強関連の回答が3割近くと多め。

私も学習塾で講師をしていましたが、集団授業というのはどうしても真ん中あたりの生徒にレベルを合わさざるを得ず、下位何割かには難しい内容になってしまいます。

すると、勉強が苦手な子は毎日毎日よくわからない授業を受けに学校へ行かされるわけですから、これはちょっと想像するだけでかなりの苦痛だとわかります。

同じ地域の同じ年齢の子をただ集めて同じ授業を聞かせる——このやり方はもう限界に来ていると思います。そうした旧態依然としたやり方を続けていることによる弊害が、この調査結果に表れているのでしょう。

現役中学生が学びたいと思える場所

中学生が学びたいと思える場所のアンケート結果
旧態依然とした学校の体制が不適応を生んでいる

現役中学生がいまの中学校に適応できてない、いきたくない、つまらないと感じてるとすれば、どんな場所で学びたいのか? それがこちら。

1位自分の好きなこと、追求したいこと、
知りたいことを突き詰めることができる場所
58.1%
2位自分の学習のペースにあった手助けがある場所44.6%
3位常に新しいことが学べる場所35.1%
4位クラスや時間割に縛られず、
自分でカリキュラムを組むことができる場所
24.3%
5位学校の先生だけでなく、地域の人など、
さまざまな社会人が先生になってくれる場所
14.9%

私も、激しく同意します。

今の日本は中学校も高校も、お仕着せの学科(英数国理社)をやらせるだけで、個人の「好き」がまったく尊重されていません

いま30代、40代以上の方は、現在の中学生がどんな勉強をしている(させられている)かを見るとびっくりすることでしょう。あまりに自分たちの時代と変わっていないのですから。

世の中はテクノロジーが進み、スマホが普及してYouTubeが日常的に見られるようになり、自動運転やVRも現実となってきている——なのに、学校の理科ではリトマス試験紙の色がどうのという話を教科書に沿ってやってるだけなんですから、学校がイヤになるのも無理はありません。


余談ですが、高校で不登校を経験し、浪人をして20歳で同志社大学に入ったとき、私は感動しました。

同志社大学 京都今出川キャンパス
(©️Felix Filnkoessl,Doshisha University,CC BY-SA 2.0:元画像を改変)

まさに大学こそ、自分の好きなことを自分のペースで学べて、さまざまな人から教えてもらえる場だったのですから。もともと学びたい気持ちが強かった私は哲学とドイツ語を中心に、言語学・英文学・宇宙論・プログラミングまで学ぶことができました(かじっただけの学問も多いですが、それでいいのだと思います)。

と、それはよかったのですが、なぜそういう学び方を10代のうちからできなかったのかと悔しくも思いました。いったいなぜ、そういう学びの場に行けるまで中学と高校の6年間も待たされたのか、と。苦行のような無味乾燥の「お勉強」に耐えねばならなかったのか、と。

高校はもちろん、中学校でも一部、大学のような仕組みがあればいいのにと思います。

不登校予備軍の子は高校進学にご注意

不登校傾向がある中学生は、全体の1割。かなりの数に上ります。時代と学校制度のズレによって、多くの子供が居心地の悪さを感じている結果でしょう。

一つ注意していただきたいのは、不登校予備軍の子の高校進学後のことです。不登校ではなかったという前提で全日制の高校へ進学すると、途中でペースについていけず不登校になってしまう事例もあります。定義通りの不登校(年間30日以上の欠席)かどうかではなく、お子さんの状況に合わせた進路選びを心がけたいものです。