夏休みが明ける8月下旬から9月上旬にかけ、毎年報じられるのが児童生徒の自殺です。名も知らず、経緯もわかりませんが、悲しみを覚えずにはいられません。

とりわけ危険だとされるのが中学1年生の夏休み明けですが、統計データから見ると、よりいっそうこの時期の特殊性が浮き彫りになってきました。

中1の夏休み明けは二重の意味でリスク大

中学校1年生は、「中1ギャップ」との言い方もあるように、問題が生じやすい学年です。さらに夏休み明けは久々の登校となり、児童生徒にプレッシャーがかかりやすい時期。

ここでどんな問題が生じているのか、まずはデータから捉えてみましょう。

中1での不登校開始は7〜9月に集中

現在、小学生の不登校率が0.54%なのに対し、中学生は3.25%。高校生(全日制)の不登校率は1.5%なので、中学生はそもそも不登校になりやすい時期と言えます。

さらに、こちらの学年別不登校児童生徒数をごらんください。

中2・中3の方が多いですが、小6から中1になったときの増加率が最大となっています。不登校に陥るタイミングとしては、中1が最多です。

では、1年のうちどの時期に不登校となる生徒が多いのか。そのデータがこちら。

中学1年生の「学校を休み始めた時期」の人数分布
こちらのデータより作成:「不登校に関する実態調査」 ~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~(概要版):文部科学省,p.71

4区分なのでざっくりしていますが、やはり、中学1年生は夏休みを含む夏の時期(7月〜9月)に学校を休み始める生徒がもっとも多くなっています。

このように、中1は全学年中でもっとも不登校となる人数が多く、かつ、中でも夏休み明けを含む夏季に集中しているのです。

18歳未満の自殺は9月1日に集中

日本の自殺者数は平成15(2003)年の3万4427人をピークに減少を続け、平成27(2015年)には2万4025人となりました。あまり報道されませんが、驚くほどの改善ぶりです。

その一方、2017年度に自殺した児童生徒は250人にもおよび、なんとこれは過去30年間で最多となっています。あまりに対照的です。

また、内閣府が子供たちの「自殺した日」を調査した結果、9月1日に集中していることもわかっています。

18歳以下の自殺者において、過去約40年間の日別自殺者数をみると、夏休み明けの9月1日に最も自殺者数が多くなっているほか、春休みやゴールデンウィーク等の連休等、学校の長期休業明け直後に自殺者が増える傾向があることがわかる

長期休暇中はグラフが低く、それが終わったとき急激増加している

出典:4 学生・生徒等の自殺をめぐる状況|平成27年版自殺対策白書 本文(HTML形式) – 内閣府

緑色のグラフを見ると、9月1日が針のように上へ伸びているのがわかります。やはり夏休み明けは自殺の客観的データから見ても、危険度の高い時期と言えます。

夏休み明けの登校に対する意見

登校への社会的圧力はまだまだ強い

以上のように、客観的数値による調査結果は充実しています。しかし、なぜ学校へ行けないのか、なぜ長期休暇明けが危険なのか、生徒自身の精神面の変化といった部分については、日本にはまだしっかりした調査研究がありません。

ただし、朝日新聞デジタルのフォーラムに「夏休み明け、学校に行きたい?」と題した特集があり、こちらが参考になります。2018年夏に実施されたこのアンケート結果から、その心境を垣間見ることができます。

10代の方を中心にいくつか引用させていただきます(太字強調は私)。

学校に行くのは当たり前って世の中で、だけど嫌で嫌で仕方なかった学校。学校だけが全てじゃない。行かなくてもいい。行かないっていう選択は勇気のいることだからすごいと思う。私は理解ある方々に恵まれ転校した先で伸び伸びと私らしく学校に通ってる。今は宿題がちょっと嫌だが学校は楽しみ。
だから学校に行かなくてもいい!自分の居場所そして自分らしくいることが一番大切な事だと思う。
そして周りの人も自分の意見を押しつけないで見守って、そして影ながらでもいいから支えてあげて欲しい。
学校に行くより生きて、笑顔でいること、それが良い。
ゆっくりゆったり生きようね

京都府 女 10代

学生の頃、学校に行きたくなくても母親から「学校に行かなかったら、家から追い出す」と脅されていたのでイヤでも
行かざるを得なかった。
子ども大人問わず、安心して気軽に
相談できる公共機関や電話相談所が必要だと思う

新潟県 その他(どちらでもない・決めたくない) 20代

無理矢理風邪を引いた

埼玉県 男 10代

個人的には、もう少し学校側が多様性を認めるように働きかけるべきではないかと思います。教師が教えたことが絶対であり、逆らったり別の方法を模索しようとすると容赦なく成績を引くような、大袈裟に言えば生徒の個性を潰すような教育が行われている気がします。もっと、教師は生徒の自主性や個性を伸ばしてあげられる手助けをするべきではないでしょうか。

神奈川県 男 10代

「乗り越える」って、学校に行くことがゴールみたいだなぁと思いました。学校教員も児童生徒も無理をしない学校のあり方は探せないのかなと思います。

鹿児島県 男 10代

以上、出典:夏休み明け、学校に行きたい? – フォーラム:朝日新聞デジタル

やはり多くの方が、学校という場所に不自然さを覚えているようです。

当サイトでは繰り返し述べていますが、やはり学校という教育機関そのものが機能不全に陥っているのは否めないと思います。夏休み明けのつらさは、そのもっとも象徴的なものだと言えるでしょう。

「学校に行きたくない」への対応策

どこにでも道はある

上の意見を見ても、場合によって夏休み明けの登校が過酷なものであることが感じられたと思います。

お子さんが学校へ行き渋ったとき、最初は何とかして行って欲しいと思うことでしょう。無理もありません。実際に行ってみればまた楽しく通えることもあるでしょうから、軽く背中を押すくらいはいいかもしれない。

しかし、もし心身の不調を訴えたり不登校が長引くようなら、ぜひ別の選択肢を考えてみてもらいたい。

むかしと違い、今は教育委員会をはじめ、行政の相談窓口があります。多くの市町村に教育支援センターがあり、不登校児童生徒を受け入れています。NPOや民間企業によるフリースクールもあれば、通信教材も充実している。こういった代替案をぜひ、調べてみてください。

多くの不登校事例を目にしてもっとも不憫に思うのは、親子ともども「また学校に行かなければ」という強迫観念にかられ、そこで思考停止に陥り、そのまま何もせず、何ヶ月も何年も時間を無駄にしてしまう例が少なくないことです

もし早めに考え方を切り替え、その子に合った教育支援を行なっていれば、学業の遅れも最小限にとどめ、学校とは別のコミュニティに入るなどして、充実した日々を送れたかもしれない。

なのに、1年も2年も、場合によっては5年も10年もただ不登校のまま過ごしてしまう。これほどもったいないことはありません。膨大な機会損失です。

上の意見の中にもあったように、今の学校は個性を尊重できていません。多様性は抑圧されています。であれば、そこに適応できない子が一定数出てくるのは当たり前の話。

ぜひ、一人ひとりの個性を尊重して、学校以外の居場所を探してあげてください。