「うちの子、いつもゲームばっかりしてるわ。もしやめさせられたら成績も上がると思うのだけど……」

ゲームに夢中になる子供と成績への悪影響を心配するお母さん、この構図は今も昔も変わりません。不登校の子の場合はゲーム時間も長くなりがちで、余計に心配になることでしょう。

しかし、ゲームをしていると本当に学力への悪影響があるんでしょうか? ゲームをやめさせれば、成績はアップするのでしょうか?

実はこの問題にはすでに答えが出ています。グラフを使ってわかりやすく解説しましょう。

小6のゲーム時間は平日1.1時間、休日1.8時間

小学校6年生の1日のゲームプレイ時間(平日と休日別)
出典:厚生労働省21世紀出生児縦断調査 第12回21世紀出生児縦断調査(平成25年)
グラフは私がデータより作成

まずは事実確認。小学校6年生で見ると、ゲームの時間は平日で1時間ほど、休日で2時間ほどが多くなっています。

小6というとゲームがしたい盛りだと思いますが、案外少ない印象です。平日はゲームをしない子が28%、休日でも16%もいます。

一方で、休日となると6時間以上というハードなゲーマーも3%いました。

多くの子供のゲーム時間はさほど多くありません。が、毎日3、4時間もゲームをやってる子も一定数います。あなたのお子さんもそうでしょうか? とすると、そのうち1時間でも30分でも学習に振り向けてくれたら、と思うでしょう。

さて、ではゲームの時間を実際に削ったら、どういうことが起きたのでしょうか? これははっきりした調査結果があるのです。

ゲームを1時間やめさせて増える勉強時間は2、3分

ゲームを1時間やめさせて増加する学習時間
出典:中室牧子『「学力」の経済学』Kindle版

『「学力」の経済学』を書いた教育経済学者である中室牧子氏らの行なった研究によると、たしかにゲーム時間を制限することで勉強時間は増えたそうです。

しかし、ゲームを1時間減らして増えた勉強時間はたったの2、3分でした。

おそらく、ほとんどの子供はゲーム時間を減らしたところで勉強時間は増えなかったのでしょう。「ゲーム時間をそのまま勉強時間へ」と、そう都合よくはいかないことが研究の結果でわかってしまいました。中室さんはこう書いています。

テレビやゲームの時間を制限しても、子どもは自動的に机に向かって勉強するようにはなりません。子どもが勉強に取り組む姿勢が変わらないのに、テレビやゲームの時間を制限したら、たぶんそれに類似する他のこと—スマホでチャットをする、あるいはインターネットで動画を観るなど—に時間を費やすだけです。

出典:中室牧子『「学力」の経済学』Kindle版,位置545

たしかに、親にゲームを制限されて、「じゃあ勉強しよう」となる子どもはほとんどいないでしょう。「ゲームはだめって言われたからスマホかiPadで動画でも見よう。それもだめならテレビか漫画」となるのが関の山。

ゲームの時間を制限すること自体には、学業成績アップの効果は期待できない。これが結論です。

ゲームは2時間を超えると悪影響

『「学力」の経済学』キンドル版
あなたの子育ては間違っている! 必読です

では、子どもにはいくらでもゲームをやらせていいのか? もちろん、そんなことはありません。

中室先生は子どもの健康についても研究されており、「テレビ視聴やゲーム使用の時間が長くなりすぎると、子どもの発達や学習への悪影響が飛躍的に大きくなる」としています。

では、何時間に制限したらいいのか? 答えは2時間。

1日2時間を超えると、子どもの発達や学習時間への負の影響が飛躍的に大きくなることも明らかになっています。

出典:中室牧子『「学力」の経済学』Kindle版,位置555

1日1時間なら何の問題もない。けれど、2時間以上だとよくない。こう覚えておきましょう。

ゲームを悪者と決めつけないで

プレイステーションでレースゲームをプレイ
良質なゲームは子ども時代のかけがえのない体験となる

保護者からすると、ゲームは勉強時間を削り、生活習慣を狂わせる悪者に見えるかもしれません。しかし、それは早とちりです。

ゲームはロマンを与えてくれます。豊かな世界観を提示してくれます。それに、人間の能力を育ててもくれるのです。

たとえば、ドラクエやファイナルファンタジーといったロールプレイングゲーム(RPG)であれば、強い敵を倒したり難しい試練をクリアしたりするため、まず手段を考えさせられる。アイテムが必要ならお金を貯めて、レベルを上げるために経験値を増やす。これはビジネスにも通じる思考法です。

実際、いま若い起業家やフリーランスの方がビジネスを語るとき、圧倒的に多いのがRPGの比喩です。私もフリーランスで働いていますが、仕事の進め方はむかしやったRPGとすごく似ています。ツールや教材への投資は武器や防具といった道具を買うのに似ているし、仲間を集めて目標に向かって進むのはゲームもリアルも同じ。

オンラインなら仲間とも出会えてコミュニケーションも学べる
(画像出典:ドラゴンクエストX オンライン | 新しい冒険の舞台が広がり続ける“終わらないドラクエ”

また、アクションゲームは常にトライ&エラーの繰り返しです。ここでどうキャラクターを操作すれば先へと進めるのか。何のアイテム、どの能力を使えば敵を倒せるのか。こういったゲーム体験はまさに、教育で重視されてきているPDCAサイクルの実践です。

ゲームはただの娯楽ではありません。面白く、派手に演出されてはいますが、プレイすることで本質的な能力を磨けるすぐれた学習ツールなのです。

いまやゲームは教養である

昔、教養の代表格といえば文学や音楽、絵画でした。つまり、メインカルチャーと呼ばれるコンテンツです。

しかし、現代では漫画やゲームといったサブカルチャーが教養(=共通言語)のメインにすげ変わっている感があります

話の中で例えとして通じやすいのはワンピースやドラゴンボールであり、ポケモンやスーパーマリオだったりします。こういった話は外国人にも普通に通じます。そんな時代にゲームをやらせなければ、むしろその子は時代に取り残されてしまうでしょう。

はっきり言って、徳川の歴代将軍の名前よりスーパーマリオの主要キャラを知っておく方がはるかに重要でしょう。徳川家綱を知らなくて困ることは(テスト以外では)ほとんどないでしょうが、ピーチ姫を知らないとけっこう不便なはずです。

あんまり長時間やらせるのは危険ですが、毎日2時間くらいでしたら大丈夫。ぜひ、どんどん子どもにゲームを買い与え、やらせてあげましょう。そして、これも大事なポイントですが、ぜひお父さんお母さんもいっしょにプレイすること。きっと子どもとのコミュニケーションも円滑になり、世界が広がりますよ。