こんな噂を耳にするようになりました。

「どこぞの中学校が定期テストを廃止したらしいぞ」と。

おまけに、その中学校ではクラス担任制もないし、宿題もなくなったらしい。

いったい、中学校の根本とも言うべき仕組みを廃止している中学校とはどんなところなのでしょう? 定期テストをせず、どうやって生徒の勉強に対するモチベーションを引き出しているのでしょう?

定期テストを廃止した麹町中学校

千代田区立麹町中学校
出典:千代田区立麹町中学校HP

1学期と2学期に行われる中間・期末テスト、それから3学期の期末テスト、合計年5回の定期テストは全国の中学校でずっと行われてきました。

若い人も年配の人も、これが当たり前だと思って過ごしてきたはず。

しかし、東京都千代田区立麹町中学校は、これを2018年に完全に廃止しました。

そう、この麹町中学校、私立ではなく公立中学校なのです。

創立1947年、「公立の名門校」とされるこの麹町中学校が大改革に乗り出しており、全国の教育関係者・メディアから注目されています。2019年6月いは、柴山文部科学大臣本人も視察に訪れ、その改革を評価しているほど。

また、同校の改革は定期テスト廃止にとどまりません。

  • 宿題
  • クラス担任制
  • 体育祭のクラス対抗
  • 服装や頭髪指導

こういった「当たり前」と思われていた制度を、次々に廃止しているのです。

また、この麹町中学校につづき、世田谷区立桜丘中学校も定期テストを廃止しています。今後もこの麹町中学を震源地とし、定期テストの廃止は東京から全国へ波及していきそうです。

工藤勇一校長のプロフィールと経歴

こうした麹町中学校の改革を主導しているのは工藤勇一校長です。どんな先生なのか、プロフィールをまとめてみました。

生年1960年
出身山形県鶴岡市
大学東京理科大学卒
経歴山形県・東京都の中学校教諭。
新宿区教育委員会指導課長などを経て、2014年4月より現職。
安倍首相の私的諮問機関である「教育再生実行会議」の委員をはじめ、経産省「EdTech委員」、産官学の有志が集う「教育長・校長プラットフォーム」発起人など多数の公職についている。
『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』
『「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』
『学校の「当たり前」をやめた。 ― 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革 ―』
出演番組NHK「おはよう日本」
毎日放送「林先生の初耳学!」
TBS「あさチャン!」

これだけの根本的な改革をしているので、てっきり民間企業から来たいわゆる「民間人校長」なのかと思いきや、そうではありません。長く中学校教諭をされていたようです。教員としてのキャリアが長いのに、それまで実践してきた仕組みを次々に廃止・撤廃できるとは驚きですね。

「定期テストはいらない」に共感

これまで何十年も全国の中学で実施されてきた定期テスト。これを完全に廃止。異論反論ありましょうが、私は大賛成です。

中学時代を思い出してみると、定期テスト前には1週間か2週間、即席で試験範囲を勉強していたものです。それまでろくに自主勉強なんてしてなかったのに、テスト期間だけがんばっていました。

これはこれで「点取り競争」としては楽しい面もあったのですが、実力が付いたかと言われれば疑問です。どうしたって、そのとき限りの「最大瞬間風速」でしかありませんでした。

日頃から生徒が自主的に勉強できるなら、もはや定期テストなどという旧時代の遺物は一斉撤去してしまった方がいいと思います。

麹町中学校にも単元テスト・実力テストはある

定期テスト廃止に誤解
「定期テスト廃止」は誤解されがち

ところで、ニュースに軽く触れただけの方はこう誤解しているかもしれません。

「定期テストをなくしたってことは、子供がのびのびと過ごすことができる。これまでの勉強漬けの生活から解放されて、ゆとりある生活ができるってことか!」と。

でも、これはちょっと……いえ、かなり違います。

麹町中学校からすべてのテストがなくなったわけではありません。定期テストは廃止だけれど、単元テストと実力テストはありますテストの回数で言えば、むしろ増えているのです。

単元テストはその名の通り、定期テストより狭い範囲で行うもの。ですが、定期テストと違うのは何度でもやり直せるってところ。

「何度でもやり直せる!? じゃあ何回か受ければ絶対満点取れるじゃん」

と驚かれるでしょうが、実際、そういう仕組みのようです。

私たちはテストというと一発勝負と思い込んでいますが、別に、ここに必然性はないのです。最終的にはそのテストで問われた内容が定着すればいいわけですから。

むしろ、この仕組みの方が1回目の試験で自分の理解度が客観視でき、そこで間違えたものは2度目3度目で点を取れるように復習をするモチベーションが生まれる。この点で非常にいい仕組みだと思います。

定期テストは一発で点数が付いて覆らないため、そのあと復習をする動機が生まれません。教師は「間違えたところを復習するように」と口では言いますが、仕組み上、復習をする気になれないのが問題でした。

一方、麹町中学校のこの単元テストの仕組みはこの欠点を補うよい仕組みになっていると思います。

加えて、年5回の実力テストは、日頃から勉強をしていくための仕組みとして機能しています。こちらは成績の評価には使われないので、子供たちが純粋に自分の実力を見つめ直すことができます。

こうして見ると、麹町中学校はテストそのものを減らしたわけではなく、回数としてはむしろ増えているんです。勉強時間だって、トータルで見ると増えている可能性が高い。

つまり、「定期テスト廃止」という言葉からイメージするような、「勉強はそんなにがんばらなくてもいいんだよー。個性を伸ばしましょうねー」みたいな教育方針とはまったく違います。

この点で思い違いをしないよう、注意が必要ですね。

基礎診断が導入された高校でこそ定期テスト廃止を

このような中学校での改革を見て思ったのは、「学びの基礎診断」が導入された高校でこそ、定期テストを廃止した方がいいということ。

2019年から全国の高校で学びの基礎診断という民間の教材を利用した実力テストのようなものが導入されましたが、その後、高校で定期テストが廃止されたという話をまったく聞きません。おそらく、基礎診断と併行して、定期テストも続いているのでしょう。

「たぶんそうなるだろうな」と予想させたのは、文科省が学びの基礎診断の資料として出しているパンフレットの中の一部、これを見たときでした。

定期テスト(緑色の部分)は残るのが前提のような書き方

このように、学びの基礎診断がはじまっても、定期テストは存続するのが当たり前かのような書き方になっている。

もちろん、中学と同様、高校でも定期テストをやるかどうかは各学校と教育委員会に委ねられており、実施が法律や指導要領で決まっているわけではありません。各々の裁量で決めていいんです。

できるなら、学びの基礎診断が導入された高校でこそ、麹町中学を見習い、定期テストを廃止して欲しいものだと思います。

まとめ

ようやく、学校に残る古い仕組みである定期テストが一部で廃止されてきました。喜ばしいことです。

子供の頃に中間テスト・期末テストを経験した者からすると、ノスタルジーもあって少し寂しい感じを覚えたりもするでしょう。しかし、もっとよい仕組みが作れるならそちらへ舵を切る方がいい。このような改革がさらに推し進められることを祈っています。