高校に入学したはいいけど、環境や学習面の変化に適応できずに不登校や退学へといたる現象、「高1クライシス」。「中退を防ごう!」という論調で語られがちなこの問題ですが、はたして、高校生活への順応が望ましいゴールと言えるのか?

私は、そこに異を唱えたい。

不登校だった自分から見れば、すみやかに環境を変えること、つまり、通信制高校への転入・編入こそが最適解に思えます。

高1クライシスとは何か?

中学校から高校へ進学すると急激に環境が変わります。クラスメイトが変わり、勉強が難しくなり、遠距離通学をする人も増える。と、その新しい環境に適応できず、学習意欲が低下したり不登校になったり、中退したりしてしまう。これが「高1クライシス」とか「高1ギャップ」と呼ばれるものです。

「小1プロブレム」や「中1ギャップ」もありますが、新しい環境に飛び込んだ一年目は不適応を起こしやすいもの。生徒によっては、心身の健康を害したり自身喪失につながることもあります。「高1クライシス」は「アイデンティティ・クライシス」の語感にひっかけた造語なのでしょう。

かく言う私も「高1クライシス」に直面した一人です。ど田舎の、1学年15人の中学校からいきなり1学年8クラス、40人学級へ放り込まれ、あまりのギャップに面食らいました。結果、1年の夏休み明けあたりからちらほら欠席が目立つようになり、学業も生活もズタボロに。

なぜ高1で不適応を起こしやすいのか。この根っこにはどんな要因があるのか。その考察は少しあとにして、まずは客観的なデータを眺めてみましょう。

データで見る高校中退の現状

「高1クライシス」に直面したあと、予想される反応が「不登校」であり「高校中退」ですが、では、それらの実情はどうなっているのでしょう?

高校中退は全体の1.3%

文部科学省の統計データによると、平成29(2017)年時点ではこのようになっています。

生徒数割合
全高校生328万6529人100%
不登校4万9643人1.5%
中退者4万6802人1.3%

出典:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

思いの外、不登校も中退者も少ない。同じ年、中学生は全体の3.25%が不登校ですから、高校生の方が全然少ないのですね。

関連記事:不登校は26年で3倍に増加|背景にあるのは学校の「成功体験」だ

中退者数の推移は減少傾向

では、時系列で見ると中退者・中退率はどう推移しているのか? これも同じ調査結果の中で紹介されています。棒グラフが「中途退学者数」で、折れ線グラフが「中途退学率」です。

(クリックで画像拡大)

意外にも(?)中退者数は平成に入ってから右肩下がりに減少しています。

昭和57(1982)年以降、中退者数のピークは平成2(1990)年の12万3529人で、最少は平成29(2017)年の4万6802人。割合のピークは平成12(2000)年あたりの2.6%で、最少はこれも平成29年の1.3%となっています。

小・中学生の不登校増加とは対照的に、高校生のドロップアウトはかなり減少しています。

高校中退者の半数は高1に集中

では、学年別の中退者はどうなっているのでしょうか。

出典:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について,p.123

「学年」がない単位制を除くと、高校中退者の半数は1年生に集中しているのがわかります。これが「高1クライシス」と言われるゆえんなのでしょう。

高1で辞めたくなるのは「あるギャップ」のせい

深いギャップ
そこには深いギャップがある

中退者の半数が1年生に集中。これをどう捉えたらいいのか? 国立教育政策研究所が詳しい調査結果を公表しています。

参考:「高校中退調査 報告書」~ 中退者と非中退者の比較から見えてきたもの ~ 平成29年 6月 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター

こちらは上記文科省の調査とは違い、とある県(非公表)の高校生全体を調査対象とし、学校生活に関する意識や行動について、3年のあいだ追跡調査したものです。

国立教育政策研究所の「知見」に疑問

では、この調査で示された知見を一部ご紹介しましょう。

高校中退の防止については、高校1年生の1学期間での働きかけがポイントである。

(中略)

具体的には、学ぶことの意義や現在の学習と自己実現とのつながりを考えさせること、また、基礎学力の定着(義務教育段階での既習事項の復習)や学年(学校)行事の時期の再考などは、結果的に高校中退の防止に結びつくと考えられる。

出典:「高校中退調査 報告書」~ 中退者と非中退者の比較から見えてきたもの ~ 平成29年 6月 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター,p.42

また、このような知見も。

高校3年間の、どの学年、どの学期においても、「まじめに授業を受けている」と「学校行事に熱心に参加している」の質問項目に対する肯定的な回答は、安定して高校中退の防止に影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。

出典:「高校中退調査 報告書」~ 中退者と非中退者の比較から見えてきたもの ~ 平成29年 6月 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター,p.43

分かりにくいですが、つまり、1年生の1学期が大事だから、そこで基礎学力の定着と学校行事への積極参加を促がすべし。これは2、3年生になっても同じだ。と、こういうことでしょう。

……いかがでしょうか? 個人的に、大規模な調査をした割にはなんともヌルッとした、要領を得ないものに感じられます。どうも解釈がずれている気がしてなりません。

高校を中退する人が学業に意欲を失い、行事や部活に積極的になれないなんてのは、調査するまでもなくわかります。ちょっと想像するだけで。さらに、学業面でのケアや主体性・積極性の喚起が中退者を減らすとの指摘は理屈としてもズレていないでしょうか。

中退する原因はもっと根深いところにあり、まじめに授業を受けなくなったり学校行事への熱心さは失われるというのは、結果に過ぎないのでは?

高校中退の原因は学校教育と時代のギャップ

おそらく、こういうことではないでしょうか。

現在の高等学校は、古い体質のまま惰性で教育をしている。そのため時代に合わなくなっている。古いままの学校と激変する社会。この巨大なギャップを感じ取った生徒たちがやる気と熱意を失っているのだ、と。

15歳、16歳ともなれば思考力や知識も身についてきます。スマホからインターネットに接続し、現実社会の激変ぶりも目にしています。毎日YouTubeで動画を見て、LINEや各種SNSで連絡を取り合っています。

そんな中で入学した高校はどうか?

授業を録画してYouTubeにアップしている教師はいるか? いません。LINEやSNSでコミュニケーションできているか? できていない。紙の教科書とノートを使い、一斉授業で、昔ながらの教育を続けています。

そんな環境でやる気と熱意を持って学業にあたるなど、できない相談でしょう。

「まじめに授業を受けていない」とか「学校行事に熱心に参加していない」というのは結果でしかない。表面に現れた反応でしかない。いわば、風邪をひいたときの「発熱」と「鼻水」のようなもの。ウィルスは別にいる。

すなわち、高校中退の原因は、時代の空気を呼吸する生徒たちの意識と、惰性で旧態依然とした教育を続ける学校、この両者のあいだにある深刻なギャップなのです。

高1クライシスへの対策には通信制高校編入が最適解

通信制で勉強する女子高生
大事なのは通学より学業そのもの

では、そうしたギャップから生じる高1クライシスにはどういった対策を取るべきなのでしょうか?

先ほどの国立教育政策研究所は「高校中退の防止」を目的と考えていましたし、一般的にも、学校への適応と卒業を「問題の解決」と捉える向きがあります。

たとえば、このような声も聞こえてきそうです。

avatar
高校なんてのはつまらないものだし、つらいこともあって当たり前。それでもやっていく忍耐力を養う場なんだ。

なのに、不登校になったり中退したりしてしまうのは甘えでしかない。

しかし、この意見には3つの反論が可能です。

高校に通い続けることは機会損失になる

現在、多くの高校は機能不全に陥っており、本当の意味の学力を養成することができていません。むしろ、時代遅れで退屈な「お勉強」を強いる、忍耐力養成機関になってしまっています。

このせいで10代の貴重な3年間——無限に多くの可能性があるはずの時間——が教室の中で無駄に消化されてしまっているのです。

15歳から18歳までの3年間があれば、たくさんの本を読んだり英会話を学んだりプログラミング言語を習得したり、あるいは勉強しつつ就労して社会経験を積むことだってできる。夢に向かって現実的な一歩を踏み出すことだってできるでしょう。

それをただの忍耐で過ごすのは、重大な機会損失となります。

個性を潰されてしまう

現在、学習指導要領ではこのような規定があります。

単元など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の 育成に向けて,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにする こと。

出典:高等学校学習指導要領(平成30年告示)|文部科学省p.109

このように、スローガンとしては生徒の自発性・主体性を育む教育というものが謳われています。ですが、教育現場では必ずしもうまく行っていない(参考:小針誠『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』講談社現代新書)。

むしろ、今だに個性を潰し、ロボットのような人間を大量生産しています。

個々人の特徴や、あれが好き、これが嫌いとった感情は抑圧され、求められる課題をこなす能力ばかり要求されている。つまり、均一な労働者となる人材を輩出するという古い仕組みで動いているのが高校という教育機関です。

それで社会がうまく回り、個人も幸福になれた時代がありました。しかし、尖った個性こそが価値を発揮する今の時代、ロボットのような人間は仕事を得ることすら難しくなっていくでしょう。

通信制という選択肢がある

もし15〜18歳の子の教育機関が全日制高校しかないとすれば、私も、忍耐してそこを卒業すべきだと思います。また、そこを卒業することで社会的に有利になるなら、多少無理をしてでも一直線に卒業すべきだと思います。

しかし、他にも選択肢はいくらでもある。その第一のものが通信制高校とそのサポート校です。

2018年時点で、通信制課程に在籍する高校生は18万6502人。これは全高校生342万人のうち5.4%にあたります。つまり、高校生の18人に1人は通信制。もはや一般的な選択肢となっているのです。

データ出典:学校基本調査-平成30年度結果の概要-調査結果の概要(初等中等教育機関、専修学校・各種学校)

時間の自由が効いて、主体的に好きなことを学べるのが通信制高校の強み。我慢して全日制高校に通い続ける必要は1ミリもありません。

高1クライシスは転入・編入で解決する

高校1年生で不登校や中退となると、親御さんはじめ、周囲は何とか学校へ適応させようとするでしょう。国立教育政策研究所も「高校中退の防止」をゴールとして前提にしていました。

しかし、旧態依然とした教育しかできていないのが高校の現状。そこに適応できない生徒が一定数出てくるのは自然な反応だと思います。そこで、あの手この手を使って同じ学校に通わせ続けるのはあらゆる面で無駄です。

大卒の新社会人でさえ、3年以内に3割が辞めています。高校だけは全員が最後まで通い続けなければいけない、という規範自体にすでに無理があるのです。

代替手段としての通信制高校、およびそのサポート校は年々充実してきています。もし高1クライシスに陥り、環境に適応できないのなら、なるべく早期に転入・編入することをおすすめします。

ちなみに、私自身は高校に通う意義が見出せないまま、義務感のみで全日制の高校を卒業してしまいました。16年が経過した今でも、別の選択肢を取れなかったことを後悔しています。