「中1ギャップ」という言葉があります。ギャップとは、裂け目・断絶のこと。小学校から中学校へあがったときの変化、不適応、ここから生じるいじめや不登校を指す言葉です。

「小学校までは問題なく過ごせていたのに、うちの子が中1で不登校になっちゃった。このままじゃ大変なことになる!」

いいえ、お母さまお父さま、慌てることはありません。不安になることもありません。中1ギャップの問題なんて、発想の転換ひとつで解決するのですから。

中1ギャップとは何か? いじめと不登校のデータ

データで見る中1ギャップの正体

解決策の前に、そもそも「中1ギャップなんて存在するのか?」から確認しておきましょう。まず、中1ギャップは文部科学省の文書でも使われており、このようなものとされています。

児童が、小学校から中学校への進学において、新しい環境での学習や生活へ移行する段階で、不登校等が増加したりするいわゆる中1ギャップが指摘されている。

出典:小・中学校間の連携・接続に関する現状、課題認識|文科省

表現は非常にざっくりしていますが、文科省も中1ギャップという言葉を用いているのですね。

では、実際に中学校1年生になる段階でどのようなギャップがあるのでしょうか?

中1でのいじめは小6の1.15倍

文科省の大規模な調査によりますと、学年別のいじめの発生件数は直近でこうなっています。

出典:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について:文部科学省,p.30

いじめの認知件数は小6の36,317件から中1で41,943件へ、1.15倍に増えています。が、これは小1から小5までより少なく、さほど劇的な変化というわけではありません。

中1での不登校は小6の2.6倍

では、昨今注目度を増している不登校はどうでしょう?

出典:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について:文部科学省,p.74

こちらは激増しています。グラフがぐんと跳ね上がっていますね。

小6では10,894人だった不登校が、中1では27,992人。およそ2.6倍です。

別の記事でもご紹介していますが、小学生の不登校割合は全体の0.54%なのに対し、中学生だと3.25%にも達しています。「中1ギャップ」は、いじめよりも不登校として顕在化していることがわかります。

参考記事:不登校は26年で3倍に増加|背景にあるのは学校の「成功体験」だ

小学校から中学校への5つの変化

小学校から中学校へあがると、主に不登校の急増というかたちで問題が顕在化する。では、具体的にどんな変化が影響しているのか? これは親御さんであればご存知のはずですので、軽く列挙するだけにしておきます。

  • 授業が難しくなる(主に英語や数学)
  • 定期テストの実施と順位づけ
  • 友人関係のリセット
  • 学級担任制から教科担任制へ
  • 先輩・後輩の上下関係

人間関係はより大人社会に近づき、学業の面でも抽象度が上がる。このような変化に適応しづらく、不登校というかたちで問題が現れることがあるのでしょう。

無理して中学校に戻る必要はない

人生は常に「逃げるが勝ち」

もしお子さんが中1ギャップに直面し、不登校になったら……。ぜひとも親御さんにはお子さんに寄り添っていただきたい。「学校に行きたいのに行けない」という要因が何かあるのなら、親子でその解消に取り組んでもらいたい。

しかし、もしこれといった要因が見つからないのなら、無理に中学校に行かせる必要はないと思います。学校の先生の立場からは言えないでしょうが、不登校なら学校へ戻らず、別の選択肢を探ればいいだけなのです。

なぜそう言えるのか、理由を3つに分けてお伝えします。

理由1:集団生活への適応はもはや不要だから

かつては高校・大学を出たらサラリーマンになることが一般的でした。だから、一度入った会社組織に順応することが求められていました。そのための準備として、学校で集団生活を送る訓練が行われていたのです。

しかし、現在はネットでのコミュニケーションが発達し、働き方も様変わりして、集団生活に順応する力は無用の長物になりつつあります。なのに、学校は相変わらずそういう能力を養う場として動き続けている。

これからはますます、気の合う人とだけ付き合えばよく、苦手な人とは会わなくていい社会になっていきます。集団生活を学ぶ場としての学校の役割は、ずいぶん前に終わっているのです。

無理をして過去の遺物のような学校に子供を適応させることは、将来、新たな社会への不適応さえ引き起こしかねません。だから、無理強いしてまで学校に行かせることには反対なのです。

理由2:学校の教育方法は不合理だから

これだけテクノロジーが進化したのに、学校の教育方法は100年前から変わっていません。生徒を数十人集め、紙の教科書を読ませ、先生がチョークで板書をしつつ授業をする。ここから一歩も抜け出せていない。

常識的に考えれば、さまざまな工夫が可能です。授業はYouTubeに動画をアップロードして事前に見させたっていい。これなら後でも見られて、病気や不登校で休んでいても追いつきやすいでしょう。教科書は電子書籍版も支給すればいい。そしたら、重たいランドセルやカバンを背負わずに済む。

あるいは、保護者との連絡にはLINEグループを使ったっていいし、生徒との連絡・質問対応にはSNSを活用する方法だってある。保護者や教育委員会の目が行き届くように設定すれば何の問題もないでしょう。

なのに、こういった進歩がほとんどありません。

もちろん、ICT教育やEdTechを取り入れはじめた学校もありますが、革新の志に満ちたトップが着任するなどした、一部の学校に限定されています。全国にあるほとんどの学校は伝統芸能のような授業を続けているのです。

理由3:人生のレールはもう存在しないから

わが子が中1ギャップに躓き、不登校となったとき、こんなふうに思う親御さんもいらっしゃるかもしれません。

「中学校もちゃんと通えないようじゃ、将来が心配。これが原因で進学や就職に響いたらどうしよう?」

古い言葉で言えば、「人生のレール」から外れてしまう不安です。中学で不登校となり、高校への進学で不利になって、いい大学いい会社に入りづらくなってしまう。こういう心配をする方もいるかもしれません。

しかし、ご安心ください。人生のレール自体がもう、存在しません。

これを象徴するニュースが先日流れてきました。富士通やNEC、コカコーラなど有名企業がほぼ一斉に45歳以上の社員のリストラに踏み切ったのです。

富士通は19日、早期退職制度により3月末までに2850人を削減すると発表した。間接部門から営業などへの配置転換も進める。

出典:富士通、2850人が早期退職 営業・エンジニアに配転も:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41469100Z10C19A2TJ1000/

大企業の正社員として働いていた彼らは、いい高校いい大学を卒業し、人生のレールをひた走ってきたに違いない。そのつもりだったに違いない。しかし、定年までだいぶ残して早期退職を迫られたのです。死ぬまで続くと思っていたレールは、半ばで途切れていました。

その年での転職は困難を極めましょうし、残るにしても、待つのは営業などへの配置転換。齢50にしてゼロから営業のいろはを覚えるのは骨が折れるでしょう。

今後、競争力を失った企業ではこうしたリストラが増加していくでしょう。勉強をしていい学校を出て有名企業に入れば将来安泰——そんな時代はもう終わっているのです。

中学生が無理に学校という古い体質の組織に適応する必要はさらさらありません。

学校へ行く以外の選択肢を

中1ギャップの問題の代表例は不登校です。この不登校に対し、まだまだ学校も教育委員会も再登校させることを望ましい解決として考えがち。

しかし、不登校という不適応状態に陥ったのなら、別の選択肢を模索すればいいだけです。

不登校の解決策は、学校に戻ることではない。他の学習の場、コミュニティを探し、そこで自分らしく成長していくことです。

今はかつてと違い、不登校でも勉強をしたり別のコミュニティに所属したりすることが可能です。むしろ、不登校の子の受け皿として用意されている分、学校よりきめ細かなケアが受けられる可能性もある。

たとえば、このような選択肢があります。

  • 教育支援センター(旧・適応指導教室)
  • フリースクール
  • 習い事や学習塾
  • 通信教材による家庭学習

学校に行かずとも学力を身につけ、気のある仲間がいるコミュニティにつながることは可能です。

もしお子さんが中1ギャップに直面して不登校になり、そもそも学校という環境になじまないのだとしたら、それはその子の個性です。ぜひ、無理をして学校に行かせるのではなく、こういった選択肢を検討してみてください。